ガラスの棺 第22話


ゼロと黒の騎士団の決別宣言に、世界はざわめいた。
オープンチャンネルとはいえ、これらの映像は黒の騎士団や超合集国の代表など、一部の者だけが見れるものだったが、新生アヴァロンには超合集国の崩壊を望み、そのために行動した人物がいた。その人物は迷う事無くそれらの映像を記録し、かつての上司に連絡を取っていたのだ。
ゼロの宣言の少し前から始まった緊急報道は、街頭の巨大モニターでも流され、街ゆく人々は足を止め見上げると、そこには先日新生アヴァロンに乗艦した人物が、笑顔で映し出された。
その後ろにはあの日も映された、豪奢な布に覆われた謎の箱。

『皆さんお久しぶりです、ミレイ・アッシュフォードです。私は今、新生アヴァロンに乗艦しているのですが、見てください。私たちはたった今、黒の騎士団による攻撃を受けております。残念なことに黒の騎士団からは今現在も何一つ連絡はありません。アヴァロンの日本侵入を咎める言葉も、降伏命令も何もなく攻撃されているのです』

既にブレイズルミナスが展開された外の景色の映像は、彼女の言葉を裏付けるもので、KMFが発射した銃弾を防壁が防いでいる様子が映し出されていた。
ゼロが乗っている戦艦なのになぜ?
人々は驚き声を無くし映像に見入っていた。
KMFによる攻撃は次第に収まり、次に彼女はカメラを作戦モニターに向けるよう助手であるリヴァルに指示を出した。その過程で指揮官席にシュナイゼル・エル・ブリタニアの姿が、そして悪逆皇帝に与したとされている研究者ロイド・アスプルンド、セシル・クルーミー。そしてフレイヤを、あの悪魔の兵器を生み出し、今はそれを無力化する方法を研究をしているニーナ・アインシュタインが映し出された。
そして作戦モニターには、KMFに騎乗しているらしき4人の姿が映し出された。
元ナイト・オブ・ラウンズのジノ・ヴァインベルグと、アーニャ・アールストレイム。
オレンジ事件で失脚し、ゼロに寝返った後、悪逆皇帝の臣下となったジェレミア・ゴッドバルト。
そして、仮面の英雄ゼロ。

本来であれば、一堂に会する事の無い面々が新生アヴァロンに集結している姿に、誰もが困惑の色を隠せなかった。
なぜなら英雄ゼロと悪逆皇帝は敵対関係にあったはず。
だからこそ、ゼロはルルーシュ皇帝を打倒した。
ならばなぜ、悪逆皇帝側に居たジェレミアがそこに加わっているのだろうか。
ゼロとシャルル皇帝は敵対関係にあった。
ならばなぜ、シャルル皇帝の騎士ジノとアーニャがそこに加わっているのだろうか。
これほど名を世界に広めた騎士たちが、なぜ、そこに。
さらには、ゼロによる黒の騎士団との決別。
一体なぜこんな事が?
多くの疑問が様々な憶測と共に世界中を駆け巡り、人々は仮説を次々と打ちたてていく。今はネットが普及しており、嘗てナンバーズと呼ばれた者たちも、様々な見解をネット上に書き込み、意見を述べ合い、討論し、可能性を絞り込んでいった。

ミレイはその手に薄型のノートパソコンを持っており、先日ニーナの協力の元立ち上げた自分のサイトに目を向けた。<この謎を解くのは君だ!>という煽り分と、ミレイの写真が乗せられたそのサイトは掲示板が設置されており、匿名の書き込みが次々と書かれている。別のウインドウを開けば、有名掲示板。そこにもさまざまなスレッドが作られていた。その様子をみて、ミレイは目を細めて笑った。
反応は上々。

ゼロが誰か。
何故、悪逆皇帝が現れたのか。
英雄と悪逆皇帝は何を残したのか。
疑問をぶつけ、思考停止した人々の脳を活性化させる。
三人寄れば文殊の知恵。
ならば100人、1000人、あるいはそれ以上の人々が集まり疑問をぶつけあえば、答えを導き出せるかもしれない。
そしてその答えが、真相として認識されるかもしれない。

ゼロ・レクイエムの真相は、ミレイもリヴァルもシュナイゼルもカノンも知らない。
もちろん、ジノとアーニャも知らない。
何を聞いても関係者は知らぬ存ぜぬを貫き通し、自分たちは悪逆皇帝に脅されてた、彼は悪そのもの、非道な人物だったと主張するだけ。
彼らの口から真実が明らかなる事はないが、仮説ならある。
道筋は示したのだから、きっと世界はヽ仮説に辿り着くはず。
そして、ルルーシュが隠してしまった罪を思い出すだろう。
カメラを回すリヴァルとミレイの姿で全てを察したシュナイゼルは、楽しそうに目を細めるだけで、ミレイの行動を咎める事はしなかった。ロイドとセシル、ニーナは複雑そうな顔で視線を交わした後、ミレイの言動を見なかったことにしたようだ。
もしかしたら、彼らはミレイのような者が現れたら、何かしらの対処をするようルルーシュに命じられていたのかもしれない。だが、その命令の遂行を放棄したのだ。世界が平和であったなら、ミレイはこんな事をしなかっただろう。 だが、報道関係者という立場から、ナナリーの親しい友人という立場から、各国代表が、いや、ナナリーとカグヤ、そして扇が下らない争いを続けている事を知っていた。
ルルーシュが世界中の人間に罵られるのは仕方がないと諦めてはいる。
だが、真実を知っているだろう彼らが率先して罵る事は許せなかった。

ごめんね、ルルちゃん。

私は、貴方の命を賭けたこの奇跡を壊したかったの。

争いあう醜い心で壊すのではなく、真実を知りたいと言う好奇心で壊したいのよ。

ゼロの宣言後、戦闘が再開され、撃ち込まれた砲弾が防壁に阻まれる姿をミレイは冷めた目で見つめていた。その事に気がついたリヴァルはカメラをミレイから外の戦闘へと移動させる。

戦闘が開始されたと言う事は、黒の騎士団が攻撃を仕掛けたと言う事。
黒の騎士団はゼロとの決別を選択し、自分たちを導いた英雄を殺す選択をしたのだ。

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